スタッフインタビュー

Vol.6 片田江由佳マネージャー

多彩なスタッフが所属する福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局メンバーを紹介する企画、今回はFDCにおいて主に各都市のリビングラボ・ヘルスラボに取り組む、片田江 由佳マネージャーのインタビューです。

―片田江さんは2017年に公益財団法人福岡アジア都市研究所に入所し、FDCに参画されました。これまでのキャリアを教えてください。
私は福岡市で生まれ育ちました。建築に興味があって福岡大学の建築学科に進学後、東京理科大学大学院の建築学専攻を修了し、2013年に株式会社産学連携機構九州に入社。東区の「アイランドシティ・アーバンデザインセンター」の立ち上げから4年間、公民学連携によるまちづくりに関わっていました。そして、2017年4月に公益財団法人福岡アジア都市研究所に入所し、FDCに参画しました。

―もともと建築に興味があって、まちづくりや産学官連携に携わるようになったのですか?
話せば長くなりますが(笑)、インテリア好きな母の影響で、小学生の頃から将来は家を建てる建築家になりたいと思っていました。祖父が医師で「私は大工になりたかった。医者は悪くなってからしか出番がないけど、建築家は悪くなる前になおせるから」と言ってくれたのも後押しになりました。
それで建築学科に進学したのですが、設計のセンスはなくて(笑)。最初の社会背景や課題を整理する切り口が面白いねと言われて、建物より場をつくることに関心が向きました。例えば、アート作品のような建築でも人に使われていないものってありますよね。私としては「みんなに使われてこそ建築だ」という思いがあり、愛着をもって使ってもらうにはどうすればいいかと考えていたら、「シビックプライド」という概念に行き着きました。「都市に対する市民の愛着や誇り」を指す言葉です。その本を書かれた東京理科大の伊藤香織先生のもとで研究をさせてもらうことに。そのあたりからまちづくりの活動にがぜん興味が湧き、まちづくりは様々なセクターの関わりをコーディネートする人が必要だと知り、それが仕事につながって今に至るという感じです。

―なるほど、小学生の頃の思いが原点なのですね。
はい、実はもう一つ原体験があって、私の家は福岡市東区の端っこにあり、お隣や斜め前の家は糟屋郡新宮町。近所に仲のいい友達がいても学校は別々で、私は30分かけて遠くの小学校に行かなきゃいけない。遠いから、学校からの帰り道は途中からずっとひとりで…。自分の感じるコミュニティと行政区は違うんだなあ、どうしてなのと疑問に感じていました。家の近くに急な坂道があって、この勾配が小学生の通学路としてアリって誰が決めたの、子どもの足で歩いて確認したのと疑問に思ったり。母によると、社会に対して疑問や憤りを感じている小学生だったらしいです、私(笑)。

幼少時代について語る片田江マネージャー

―子どもの頃から社会に対し色々考えていたのですね。現在はどんなお仕事をされているのか教えてください。
今、メインで担当しているのは、市民参加型の共創活動といわれる「リビングラボ」、民間資金を活用した官民連携による社会課題解決の手法「ソーシャル・インパクト・ボンド」です。リビングラボでは、福岡市と取り組んでいる「福岡ヘルス・ラボ」や、「福岡認知症・介護予防リビングラボ」を担当していて、また、長崎県壱岐市の地方創生には3月まで2年間どっぷり関わり、7月までは朝倉の災害復興支援にも携わっていました。8月からは佐賀県小城市でも新たなリビングラボを始めます。

―壱岐の地方創生とは、どのようなプロジェクトですか?
「壱岐市生涯活躍のまちプロジェクト」は、市民や移住者が交流を深め生きがいを持ち、生涯を通じて健康で活躍できるまちづくりを目指す3年間のプロジェクトです。私は2年目の2017年4月から担当し、基本指針の策定から協議会の設立、そしてリビングラボの手法によるアイデア出しから事業実施まで担当しました。
壱岐の多くの方々にお話を聞き、いろんな人の思いや意見を取り入れながら、壱岐における生涯活躍のまちとは何かを探っていきました。具体的には移住・住まい・活躍・ケアという4つのテーマでワーキンググループを作り、市民や行政、事業者にも入ってもらって、アイデア出しから事業の試行・改善・自走まで組み立てていきました。最終的には、市民グループが空き家をリノベーションして、移住交流拠点「たちまち」を整備するといった動きにつながりました。
リビングラボに携わるのは初めてだったので非常に模索しながら進めましたが、市民の皆さんがやりたいことと、壱岐市役所のもつビジョンとの接点を作るお手伝いができたと大きな手応えを感じています。壱岐市が立てていた移住者数、医療福祉関連の雇用者数のKPIもクリアして、無事に3月に終了しました。

―壱岐のプロジェクトで難しかったのはどんなことですか?
正直今でも「あのときこう伝えればよかった」とか「こう進めればよかった」とか、反省することは多々あります。初めは壱岐の方から「福岡のFDCが何するの?」と引いて見られていたようにも感じました。だけど、私が足しげく通って、お酒を飲んだり(笑)する中で、徐々に受け入れてくださいました。皆さん本当に優しくて温かくて、壱岐に移住した方がいいか悩むほどでしたね。

―反対に良かったことは?
良かったのは、地域の方にワーキンググループのリーダーになってもらったことです。リーダーの方々が自分事として取り組んでくださったからこそ、メンバーも動いてくれたのだと思います。プロジェクトの最後に皆さんが「これからは自分たちでやっていきます」と力強く宣言してくださったときは、会議の場でしたけど泣きそうでした。それに「プロジェクトが終わっても、ここで生まれたつながりを生かしたい、何か新しいことに取り組みたい」「チーム片田江の一員として僕も頑張ります」と言ってくれる方もいて、お一人お一人の人生を変える機会にもなっていたんだと感動しました。
この前、久しぶりに壱岐に行ったら「お帰りなさい」と旗を持って待っていてくださって、ウルっときちゃいました…。3月までは頻繁に壱岐にいたから、行かなくなったら身体の調子が悪くなっちゃって、この前行ったら肩こりが取れたんです(笑)。体に合うんだろうなと思います。

―今はどんな業務をされているか教えてください。
3月からは飯塚市で、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)を活用したフレイル予防の取り組みをしています。「フレイル」は、虚弱(frailty)を意味する新しい概念で、医療やヘルスケア領域で注目されているホットワードです。加齢に伴って心身の活力が低下した、健康な状態から要介護になる中間の段階のことで、「運動」「栄養」「社会参加」を三位一体として包括的に底上げすることが重要とされています。早めに介入すれば健康な状態に戻れる、健康寿命をのばせるということが多くのエビデンスから分かってきています。全国でおよそ50の自治体がフレイル予防事業を導入するなか、飯塚市は全国的にもいち早く、九州では最も早くフレイルに取り組んで3年目になります。
その飯塚市で、さらなる展開に向けて、SIBを活用した実証事業を実施しています。SIBは民間資金を活用した官民連携による社会課題解決の手法の一つ。民間の資金をもとに事業を行い、事前に合意した成果が得られた場合、成果に応じて行政が資金提供者にリターンを支払います。FDCがプロジェクト全体を管理し、サービスを提供するのは福岡ソフトウェアセンター、資金提供は三井住友銀行、評価アドバイザーをフレイル予防の第一人者である東京大学の飯島教授にお願いしています。フレイル予防をテーマにしたSIB実証事業は日本で初めてです。

―なるほど、注目のプロジェクトですね。
そうなんです。今回は実証事業として、フレイル予防の多面的な効果を探るべく、民間資金を用いて実験的にサービスを提供し、得られたデータをもとに成果指標の作成を目指しています。
フレイル予防で特徴的なのは、市民サポーターがフレイルの兆候をチェックできる、市民主体の予防の仕組み。サポーター活動が、サポーターの方の予防や健康増進になるだけでなく、地域コミュニティの活性化にもつながるのではないかなど、まちづくりの視点も含めた社会的インパクトを可視化したいと考えています。私自身はヘルスケアの専門家ではないけれど、市民が関わるという点でこれまでの経験も生かせそうで、やっていてどんどん楽しくなり、すっかりハマっています。

インタビューに答える片田江マネージャー

―壱岐とはまた全然違う内容ですが、いつも仕事をする上で心がけていることはありますか?
同じリビングラボでもSIBでも、プロジェクトによって求められる知識が違いますね。行政計画を整理して、ときには論文も読み解いて、関係者、特に市民の方々にヒアリングして、市民の皆さんの力を引き出すプロジェクトに仕立てていく。とにかく毎日勉強ですね。クライアントであるFDC会員のニーズを見極めて、それ以上のものをお返ししたい。その上で、地域がより良くなるまちづくりに携わりたいと思って仕事をしているので、地域により効果が広がっていく方向性を模索したい。そんなタイミングがどのプロジェクトもあって、そのときはワクワクしますし、やってて良かったなと思います。そんなニーズ以上のことを引き出せるスタッフでいたいですね。
これからの社会は、多様なセクターが連携して課題を解いていく必要があり、市民や想いを持った人が関われる場や、トライアンドエラーできるプロセスを作ることで持続可能になると考えています。先ほどお話した建築の話に戻ると、それがちゃんと使われる建築になるということであり、私の原動力になっています。

―片田江さんはマネージャーという肩書ですが、いろいろな力が必要ですね。
FDCのフェロー島村実希さんと、自分をどう名乗るか問題について話が盛り上がったこともあるのですが、新しい職能でまだピンとくる言葉がないんです。新しいことを始めるための火起こし役であり、単につなげるだけでなくて、新しい価値を生んでいくために、どんな矢印をどう持つかを描き、そこに向けてそれぞれの想いをすり合わせていくみたいな仕事…今のところ「共創のコーディネーター」が感覚的に近いのですが、もっと伝わる言葉を探しているところです。

―今後はどんなことをしていきたいですか?
この9月に2週間のお休みをいただき、シビックプライド研究会でイギリスとイタリア、フランスへ調査に行きます。都市再生にはシビックプライドが重要であるとされる欧州で、市民参加の仕組みや手法などを改めて学び直して、業務にも生かしていきたい。もはや私のライフワークですね。
また、リビングラボは新しい概念なので、壱岐で取り組んだことを研究にまとめて、FDCのナレッジとして落としていくと共に、私自身の今後のキャリアにもつなげていきたいです。

―お忙しそうですが、趣味はありますか?
ピクニックが趣味です。大学院の伊藤先生が東京でピクニッククラブをされていて、「ピクニックは都市の文化や生活、ライフスタイルに関わる」と聞き、やってみたら面白くて。2013年に「福岡ピクニッククラブ」を作って、公園や橋の上など、福岡のまちなかでピクニックを楽しんでいます。コアなメンバーは5人ですが、そのときどきでいろんな人が参加してくれます。テンジン大学で授業をしたり、さまざまなテレビ番組で取り上げられたりもしました。これからもピクニックを通じて福岡のまちを楽しんでいきたいです。

ピクニックが趣味

(インタビューで紹介したプロジェクトの情報はこちら)
【壱岐】

【お知らせ】壱岐市生涯活躍のまち基本指針・実施計画を策定しました

【プレスリリース】市民が手がける移住交流拠点オープンに向けて、2019/2/9(土)壱岐市と市民団体「たちまち」が連携協定を締結 -リビングラボによる生涯活躍のまち事業-


【飯塚】

【プレスリリース】SIBを活用したフレイル予防実証事業にあたり、飯塚市と連携協定を締結


【小城】

【開催報告】佐賀県小城市で企業と市民が共創するリビングラボプロジェクト始動

2019102日取材
所属・肩書きは当時のものです

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マネージャー
片田江由佳
福岡市出身。東京理科大学大学院理工学研究科建築学専攻修了。2013年に(株)産学連携機構九州に入社。公・民・学連携によるまちづくり拠点「アイランドシティ・アーバンデザインセンター」にて、開発情報の発信や公共空間の創造的な利用促進、地域住民の活動支援など、都市開発におけるコミュニケーションデザインに従事。2017年4月に公益財団法人福岡アジア都市研究所に入所し、FDCへ参画。リビングラボやヘルスケア関連のプロジェクトを担当。福岡ピクニッククラブ共同主宰。著書に『シビックプライド2-都市と市民のかかわりをデザインする』(シビックプライド研究会編著・2015年)