スタッフインタビュー

Vol.1 太刀川 英輔シニアフェロー


-太刀川さんは2016年10月、FDCのシニアフェローに就任されました。まずはご自身の活動について教えてください。
僕は「見えないものをデザインする人」を意味する「NOSIGNER」というデザイン事務所をしています。もともと建築を専攻していましたが、かっこいいカタチを作ることよりもカタチが生み出していく関係性、つまり人と空間・モノの関係のほうがはるかに大事であると考え、デザインでその関係性にアクセスしたいと思うようになりました。今の事務所では、社会や未来により良い変化をもたらすためのデザイン「ソーシャルイノベーションデザイン」を理念として、プロダクトやグラフィック、空間といった幅広いデザイン領域で、ビジネスモデルや組織体、システムの構築、ブランディングなど総合的なデザインを手がけています。

-FDCとの出会いやお引き受けいただいた理由は。
実はFDCのスタッフやフェローの方々とは前からいろんなところでご縁があり、面白そうな組織だなと思っていました。2016年夏には、FDCと福岡市が手がける「福岡市実証実験フルサポート事業」の審査員にお声がけいただき、それからシニアフェローになりました。
そして一番は事務局長の石丸さんと気が合ったからですね。僕の中で石丸さんと僕は似ていて、旧来の組織やプロジェクトの全体の構造を理解して、イノベーション創出にとっての壁などを一通り受け止めた上で、そこを変えて社会をより良くしたいと真剣に考えている。その見方は共通で、使うツールとして彼にはコンサルティングや彼なりの役割があり、僕にはデザインがあると思っています。だから、僕のまわりの人が関わっていた面白そうな組織に、僕も末席ながら入れてもらったという感じです。

-FDCの印象を聞かせてください。
改めてFDCの成り立ちを知ると、とても奇跡的な組織だと思うんですよね。九州の大企業が集まり、地域のドラスティックな変革のためのスペシャルタスクフォースを作る。そこに行政や大学なども協力しているなんて、日本でそんなことがあり得るのかという感覚で、大きな希望があると思いました。
僕はいろんな企業や状況に対してイノベーションを創出する、ないしイノベーターを増やすことを目標に活動しています。その中で最大の壁は、事業部間や企業間の壁を越えられない、いわゆる大企業病です。事業部が細分化されたりヒエラルキーが生まれることによって、日本の大企業には縦にも横にもグリッドがあり、そのマス目の中に閉じ込められてしまって、本当はつながらなければいけないものは外にあるのに出られなくなっています。かといって上は下のことも横のことも詳細をつかみにくく、全体を俯瞰した意思決定をしにくい。そういう状況の中で、FDCは組織の壁を越えたタスクフォースとして存在している。FDCの最大のポテンシャルは、いろいろなヒエラルキーやバウンダリーを揺さぶる存在になれるというところだと思っています。そしてもうひとつ、FDCは若い人が多い組織であることも非常に希望があると思っています。
壁を越えるために必要なものは、斜めの関係です。例えば、僕とクライアントの関係でいうと、僕は社長と対等で、現場の人とも対等なので、そういう人が生まれることによって、社長と現場が対等かもしれないという構造が起こるわけです。中だけならヒエラルキーがあるけれど、横に別の軸が入ってくると、そのヒエラルキーが揺らいできます。


-福岡という場所をどう見ていますか。
仕事で何度か訪れたことがあり、僕のまわりのスタートアップの人が移住したりして、福岡は勢いがあるなと思っていました。それに、福岡は日本の縮図的な場所というのが面白いと感じています。都市があり、山と海があり、山間部から都市まで全てコンパクトにまとまっている。林業から農業、漁業、伝統工芸、都市、開発の話まで、ここで日本全体にまつわる課題を語ることができます。その上、意思決定者として若い市長がいて、日本全体にスケールアウトするような実験を行うのにピッタリの場所という気がします。極めて変化を起こしやすい状況が、いろんな角度で生まれてきています。
また、これからアジアとの関係を考えていく中で、地政学的に見て、ここ福岡は特殊な場所。日本がアジアとの接続を考えるときに一番にあがる場所ですよね。このチャンスに福岡からどんなことが生まれるのか、非常に気になるところです。

-ですが意外と、福岡には変化を起こそう、外へ打って出ようという視点を持っていない組織も多いという課題があります。
九州の大きな会社は九州の中で事業を展開しているので、そこが難しいと思います。例えばシンガポールのように国土が狭いところなら、企業は外に打っていくしかないし、関係性をスケールアウトすることに慣れているわけです。
福岡もアジアとの関係性が非常に大事で、企業は自分たちの事業をどこにスケールアウトするか考えていいはずです。スケールアウトするとこんなに面白いことがあると気付いてもらうようなフェーズが必要なのでしょう。まずは小さくやってみて、スケールしていく感覚を持ってもらえたらいいですね。

-これまで日本の企業と数々のプロジェクトをされてきて、ブレイクスルーするためのポイントがあれば教えてください。
ひとつは危機感。基本的に経営層の危機感が高い組織は、変化するためにいろいろなケースをトライしてみるタイミングだと自認してやっています。あとは、権限の委譲がうまいかどうかも重要です。とりあえずこの小さなチームでやってみれば、というように権限委譲できる組織だと、展開が早いですね。
それから、自社や子会社のリソースの棚卸をして、縦横のグリッドを越えるために、小さなプロジェクトをウイルスみたいに走らせてみることは有効です。九州の大企業であっても、実験的にプロジェクトを走らせてみると、今までつながっていなかった関係性ができたりシナジーが生まれたりして、その結果として黒字になることもある。そういうことを、たくさんやってみるといいのではないでしょうか。
福岡は、日本国内で唯一といっていいくらい景気がいい場所。ですから、危機感を持ちにくいのかもしれませんが、それでもビジネスモデルは確実に変わっていく中で、小さなチームをうまく別組織化したり、そういうところに自社だけでなく外の投資も含めてマネタイズするようなスキームを持つことが大切だと思います。

-最後に、FDCの可能性や今後の関わりについて一言お願いします。
少なくとも国内ではFDCのような事例を知りませんし、珍しいと思います。NPOという形で、いろんな大学や企業のイノベーターが個でつながっている組織はあって、僕もそこでいろんなプロジェクトをやっています。しかし、それらはあくまでも外部組織で、コンサルティングや斜めの関係を提供する別組織として存在しています。FDCが面白いのは、それがほとんど中にあることですね。こういう組織を作れること自体が奇跡で、極めて高いポテンシャルがある。非常に共感するところが多く、僕がデザインという武器でどのようにご協力できるかはこれから考えていくところですが、とても楽しみにしています。

2017331日取材
所属・肩書きは当時のものです

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シニアフェロー
太刀川 英輔
NOSIGNER代表。慶應義塾大学SDM特別招聘准教授。ソーシャルデザインイノベーション(未来に良い変化をもたらすデザイン)を目指し、見えないものをデザインすることを理念に総合的なデザイン戦略を手がける。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへの深い見識を活かした手法は世界的に高く評価されており、グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞(香港)、PENTAWARDSプラチナ賞(食品パッケージ世界最高位/ベルギー)、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。東日本大震災の40時間後に、災害時に役立つデザインを共有するWIKI「OLIVE」を立ち上げ、災害のオープンデザインを世界に広めた。その仕事が後に東京都が780万部以上を発行した東京防災のアートディレクションに発展する(電通と協働)。また2014年には内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」コンセプトディレクターとして、クールジャパンミッション宣言「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」の策定に貢献した。